監督のみた雷蔵君

私は雷蔵君とつきあって現在三本目の主演物をとっているが、彼についてひとこと気がついたことをいってみよう。

育ちがいいという言葉があるが、彼はこの言葉のためにうまれてきたような、そんな愛すべき人間だと私は思っている。ずいぶんヒドイことをいうことがある。それでいてにくめない。これは家柄などというものでない。彼自身の、生来の性質だと思っている。

俳優の撮影所での人気はすなわち外部の人気のバロメーターのようなものであるとは映画界ではふるくからいわれているが、彼は撮影所内でも、誰からも愛されているようだ。わるい噂もきかない。ただ童心愛すべき雷蔵君というのが所内での評判である。

時代劇というものは、新人とはいえ土台のない人ではどうしてもこなせない。その点、雷蔵君は条件も揃っている。だから臆せずのびのびと仕事をしているようだ。

私はまだ残念なことに、彼と本当に四つに組んでやるような仕事にぶつかっていない。売出し中の彼のものとしては彼の魅力に重点をおいて企画されるので、やむをえないと思うが、終着駅のない演技の今後道を彼がどう歩んでゆくか、たいへん楽しみにしている。

作者は、映画監督、雷蔵主演の最近作「踊り子行状記」を演出

(近代映画 56年5月号より)