濡れ髪喧嘩旅

1960年2月17日(水)公開/1時間39分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「あゝ特別攻撃隊」(井上芳夫/本郷功次郎・野添ひとみ)

製作 三浦信夫
企画 八尋大和
監督 森一生
脚本 八尋不二
撮影 本多省三
美術 太田誠一
照明 古谷賢次
録音 林土太郎
音楽 小川寛興
助監督 井上昭
スチール 松浦康雄
出演 川崎敬三(遠山金八郎)、浦路洋子(投げ刃のお鈴)、山田五十鈴(春駒太夫)、真城千都世(流れのお艶)、三田登喜子(おしま)、仁木多鶴子(むささびのおせん)、島田竜三(遠山金四郎)、美川純子(お妙)、加茂良子(おかつ)、井沢一郎(死神の権次)、清水元(うわばみ仁右エ門)、スリーキャッツ(歌手)
惹句 『喧嘩買います、恋も買います雷蔵・川崎の初顔合わせで、明るく楽しい喧嘩旅』『喧嘩に強い貯金やくざ女に弱い文無し侍恋も笑いも型破り』『女に目のない二本差しと、マネービルに血まなこの一本刀が、あきれかえった珍道中』『売られた喧嘩で皮算用すがる恋風胸算用これは呆れた喧嘩旅』『五秒に一度、十二秒に三度、笑いの新記録大映自慢の痛快時代劇

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女に弱い遠山金八郎、算盤高い旅鴉伝次は奇妙な友情で結ばれて、金山代官の不正を二人の協力で名奉行よろしく裁くサラリーマン明朗道中記。

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★ 解 説 ★

★ 『濡れ髪喧嘩旅』は、昨年度に於て大好評を博した市川雷蔵主演になる軽快な現代調の股旅時代劇のシリーズ『濡れ髪三度笠』『浮かれ三度笠』に次いで、新年度に打ち出すその第三作です。

★ 今度は前二作とは装いを新たに、監督は田中徳三に代って森一生、共演は本郷功次郎、中村玉緒に代って、川崎敬三、浦路洋子、仁木多鶴子、浜田ゆう子などのフレッシュメンバーが加わり、一層明るい現代調をかもし出すことが予想されます。

★ 主要配役は従来の股旅映画に登場したことのない変った性格の、銭勘定に高いいわばマネービル旅鴉おさらば伝次に市川雷蔵が扮し、幕府勘定所の下役でサラリーマン根性まる出しの侍遠山金八郎の川崎敬三と珍道中を展開するものですが、人物設定が、前二作にくらべてユニークでしかもより現代的なので、ファンには一層の共感を呼び起すことでしょう。

★ 更に、現代劇より仁木多鶴子、浜田ゆう子が、それぞれ妖艶、純情の脇役に扮し、浦路洋子が投げ刃の美少女、真城千都世のイカサマ女賭博師、三田登喜子の美人局の女、これにベテラン山田五十鈴が旅芸人一座の座頭として貫録を示すのをはじめ、島田竜三、美川純子、加茂良子、井沢一郎、清水元、寺島貢、本郷秀雄、阿部脩、荒木忍など多彩な顔触れが加わり、更に最近セクシー・ムードで人気の高いスリー・キャッツが旅一座の歌手として映画に初登場し、お得意の『黄色いさくらんぼ』『私は一人に弱い』『芸者ワルツ』等の外、本格的演技も初めて披露することになっています。

★ 物語は、かの有名な刺青判官遠山金四郎と名が似ているだけの、あまりパッとしないサラリーマン侍が、そこを見込まれて、不正代官の査察使として任命され、女に甘い彼は失敗続出、これに対し、何事をするにもタダでは動かないという確固たる生活信条をもつ旅鴉とが、奇妙な友情に結ばれて、息つくひまもない痛快事件続出で、明るい笑いと仄かな哀愁のにじむ新股旅時代劇です。

★ 製作は三浦信夫、企画は八尋大和、八尋不二の脚本は奇抜な着想と脂の乗った筆触で前二作をはるかに凌ぎ、森一生監督の演出はベテランの貫録と若々しい情熱とでこれに一層の磨きをかけるでしょうし、撮影の本多省三の野心的なキャメラも、こうした新しい感覚の作品では、一段とその面目を発揮することが期待されます。(公開当時のプレスシートより)

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★ 梗 概 ★

 わが遠山金八郎は、かの有名な北町奉行遠山金四郎とは大違いで、勘定奉行配下のあまり有名ならざる存在である。その金八郎の平々凡々たるところが見込まれ、美濃太田の金山代官黒崎主膳の不正摘発という大任(或は災難)が降って湧いて、九分九厘は失敗するという淋しい確率のもとに、彼は全然意気上らず、しおしおと江戸を発った。

 ヤケになった金八郎は、一生の思い出に官費の大名旅行と洒落込んだが、色男振って忽ち美人局にひっかかり、無頼漢に取囲まれるていたらく。腕に自信はなく、逃げ込んだ隣室のやくざ風の男おさらば伝次に助けを乞うたが、伝次は前金で手数料を取って、漸く無頼漢を撃退するという変った旅鴉だった。金八郎は旅費の大半を撃退料に払った事を後悔し、伝次も同情したが、一旦懐ろへ入れたものは返さぬ主義は一向に曲げず、その代り金八郎を土地の鉄火場に案内した。面白いほどツイて、調子に乗った金八郎は、白無垢鉄火のお艶とサシの勝負に夢中になり、結局、身ぐるみ一切を捲き上げられた。翌朝、金八郎は伝次からそれは色仕掛けのインチキ賽だといわれて憤然としたが後の祭り、計らずも伝次の行先も美濃太田というので、いまや伝次の荷物持ちとなって、同行するより他なかった。

 この伝次を親分の仇と付け狙う赤鬼一家の四天王が襲いかかるのを、伝次は簡単に叩きのめし、金八郎も我こそは遠山金四郎の甥金八郎なりとハッタリを利かして得意になった。これを見た土地の親分藤兵エは五両ずつの前金で、喧嘩の助っ人を依頼、伝次は不安がる金八郎を制して、簡単にこれを引き受けた。

 その夜、色事師を以って任ずる金八郎は、代官黒崎のまわし者おせんの媚態にまどわされたが、折から突発した殴り込み騒ぎに、おせんに心を残しながら、伝次に無理矢理手を取られて、修羅場から一目散をきめこだ。

 次の宿場はお祭。金八郎は例のインチキお艶を追って飛び込んだのが春駒一座の楽屋口で、彼は楽屋荒しと間違えられてモミクチャにされたのに引替え、伝次は投げ刃のお鈴という美少女とねんごろになったので甚だ面白くなかった。たまたまこのお鈴に難題を吹きかけて来た顔役うわばみ仁右エ門の存在を知ると、金八郎は自ら掛け合いを買って出るという売り出し方。伝次は呆れながらも、金一両也の教授料で金八郎にタンカの切り方、ハッタリに利かし方のコツを教えてやった。この俄仕込みのハッタリが功を奏して、遠山金四郎の甥と名乗る金八郎に、うわばみ一家は手もなく平伏して、袖の下までつかませる有様。図に乗った金八郎は賭場で一勝負を試みようとして、そこでお艶とバッタリ顔を合せた。お艶はインチキでない賭場の賽で勝負をしようと挑み、若し自分が負けたら身体を提供するといった。金八郎は張り切って挑戦に応じ、再びスッカラカンにされてしまった。

 だがお艶の賽はインチキだと、ばれたことから生色を取り戻した金八郎も、彼自身がインチキ遠山であることがバレて、うわばみ一家袋叩きに逢い、簀巻きされて川に投げ込まれた。これを助けようとする伝次の前に、例の赤鬼四天王と殺し屋の侍が立ちふさがる。金八郎は意外にもお艶に水中から助け出されたが、忽ち自信を取り戻してお艶にモーションをかけ再び水中へ突き落とされ、赤鬼一味をさばいて駆けつけて来た伝次はまた儲け口にありつく事となった。

 その頃、うわばみ一家は春駒一座に雪崩れ込んだが、座員は力を合せてこれを見事に撃退してしまった。二人は一座の連中と同行して旅を続けた。その間も金八郎はマメに一座の女たちにモーションをかけ、片っぱしから肘鉄砲を食っていた。そこへ彼をたずねて来たのはおせんである。彼は再び二枚目気取りで、彼女の誘うままに連れだされたが、忽ち黒崎の刺客大沼軍蔵とその配下の襲うところとなった。彼を救ったのは例によって伝次であり、莫大な前金の出血のあった事も例の通りであった。

 東海道から美濃路に入った夜、伝次は初めて金八郎の大任を知って力を貸そうと云って、彼も 太田に着けば銭に縁のない人間になる事情を話した。それは十六年前生別れになった妹のお妙を訪ねる旅で、年頃になった妹に、人並みな嫁入り仕度をさせてやりたさに永い間一心に金をためて来たというのだ。これを洩れ聞いたお鈴は思わず貰い泣きをした。

 太田へ入る手前で、金八郎は伝次や春駒一座と別れ、威勢よく代官所へ乗り込んだ。代官黒崎は、おせんから彼が女に目がないと聞き、何とか不正をごまかす魂胆で土地の美人を集めて歓迎をした。一方、伝次も春駒一座の協力で、いまは芸者に身を沈めている妹お妙と十六年振りの対面をした。彼は肌身につけた三百両の金を投げ出し、それで自由な身になってくれといったが、お妙は彼の烈しい愛の力に打たれ、自分はおそよという偽者だと白状した。

 お妙はその年の春、ふとした病から伝次を待ちこがれながら、おそよに死水をとられて死んだが、おそよは抱え主の因業なおげんから、無理矢理に偽のお妙にされて伝次の金を巻き上げるよういわれて来たのである。その頃、代官一味は金八郎が一向にどの女にもうつつを抜かさないのに苛れていたが、その金八郎がおそよを見て初めて気を動かしたのに力を得て、早速彼女を差し向けた。一方、伝次は一旦おそよと別れたものの、妹同様哀れな境遇に落ちている彼女が忘れられず、再び料亭へ引き返して来て、おそよと同席している金八郎を発見すると、怒りの余り金八郎をなぐりつけるのだった。

 浮かぬ顔の金八郎の前に再び姿を現わしたのはおせん。彼女は代官のためにもう一度金八郎を欺す役目を買って出たのだが、彼女の無事を喜ぶ金八郎の率直な愛情に、さすがに心が痛んだ。おせんは金八郎に黒崎が黄金を私蔵している場所へ案内すると偽って武器蔵へ閉じ込めたが、黒崎はこれに油と火をかけた。火の中でおせんを呼ぶ金八郎の声に、おせんは初めて金八郎への愛情にめざめた。それと知った大沼たちは彼女に切ってかかったが、折から火を見て駆けつけた伝次は悪人たちを追っ払って、金八郎の危機を知った。

 そこえ現れたのが例の四天王である。伝次奮戦。春駒一座総動員の金八郎救助。代官一味の妨害。お鈴の投げ刃、力持ちの力造の活躍等々。てんやわんやの末、金八郎は伝次のために危うくむし焼きになるところを救われた。

 それから、吟味所で金八郎が伝次に払った高い月謝のおかげで遠山金四郎張りの名タンカを以って代官を徹底的にいためつけたのはいうまでもない。そして彼にかしずいて火傷のコーヤクを張るのは、今や心を入れ替えたおせんだった。また伝次は改めておそよに三百両の金をやって太田を発ったが、宿外れで彼を待っていたのは、姉の春駒太夫につきそわれた恥かしげな風情のお鈴だった。(公開当時のプレスシートより)

本格的な時代劇

川崎敬三『濡れ髪喧嘩旅』で張り切る

 このところ大映では、手薄な時代劇をカバーするため、現代劇スターを相ついで時代劇に出演させているが、いま森一生監督のメガホンで撮影が進められている『濡れ髪喧嘩旅』では、川崎敬三が雷蔵とコンビを組み、本格的な時代劇出演している。

 この『濡れ髪喧嘩旅』は、市川雷蔵の軽快なマタ旅シリーズ『濡れ髪三度笠』『浮かれ三度笠』についでの第三作だが、こんどは前二作 とは装いをあらたにするため監督も田中徳三から森一生にバトンを渡し、雷蔵の相手役も本郷功次郎から川崎敬三にかえたというわけ。川崎敬三は、さきにオールスターもの『忠臣蔵』ではちょっと顔を出しただけで、本格的に時代劇出演するのは、こんどが初めて。

 「時代劇は慣れていないというより初めてと同じなので、マゴマゴするばかり、それでもこんどの作品は現代調をやっているつもりでやればいいと監督さんからいわれ、いくらか救われています。これがいろいろな時代劇の約束事どおりのものだったら、完全にシャッポを脱ぎますよ」

 と川崎敬三は語っており、時代劇演技を勉強するにはまず手ごろな作品といえそうだ。それでも、時代劇である以上、慣れた現代劇とはくらべものにならないほど神経がつかれるらしく、それを親切にいたわってるのが、市川雷蔵。

 「一年生のボクが相手だから、いろいろやりにくいことも多いと思うんですが、雷蔵さんが親切にしてくださるので助かります」

 と川崎敬三は雷蔵に感謝しているが、時代劇は現代劇の場合よりメーキャップに手間がとれるので、一時間は早くスタジオに入らなければならず、仕事中もさんざん神経を使うので、一日の仕事が終わると、もうクタクタ。遊びに出かける元気もなく、一目散に宿屋に帰って、明日のために休養をとるという毎日だそうだ。しかもこの『濡れ髪喧嘩旅』の役は、めっぽう女に弱く、かたっぱしから女を口説いてはふられる男というので

 「どうもあまりいい役じゃありませんね。しかし、こうした三枚目的な役は、ボクに向いているのではないかと思いますし、これまでになかった新しい面を切りひらいていくために、たいへん勉強になるやりがいのある役だと思っています。とにかく初めての時代劇なので、出来ばえが心配ですが、一所懸命がんばっています」 (西日本スポーツ 01/27/60)

 

 

                                      濡れ髪喧嘩旅                            田山力哉

 面白いのは、市川雷蔵と川崎敬三の取合せである。雷蔵が珍しい役どころで、金にならないことは何ひとつしない、チャッカリした男になる、そして例えば、やくざの喧嘩の助っ人を頼まれても、金だけ受取って、自分はこっそりドロンしてしまうという要領の良さ。

 一方の川崎敬三の方は、本当は下ッ端役人だが、遠山金八郎という大層な名前を持ち、金四郎の甥であると自称してタンカを切る。しかし、実際は力も弱く、ただ女にすぐデレデレするというだけの人物。

 この二人が、偶然にも旅を共にすることになり、その対照の滑稽さで、大いに笑わせようとする趣向だが、いずれも平生の役とはガラリと変っているだけに、飄逸味がただよって、一応見せる。

 つまり、股旅物とはいえ、時代劇の殻を棄て、われわれに身近な人物を描いていること、それが、この映画の新鮮さのポイントであって、“スリー・キャッツ”などという、横文字の歌手をそのまま登場させていることなどにも、そのこころみの一つはうかがえる。

 もちろん、東映の時代劇なんかだったら、このていどは、そう珍しいことでもないが、とかく、重くるしくなりがちな大映としては、ここに一つの進歩があるとおもう。

 ただ折角、雷蔵や川崎のモダニティを生かして、カラカラした明るさを打出してきながら、結局は古めかしい兄妹愛の話にすりかえて、ポロポロと涙をこぼさせる、どうして日本映画の作家は、喜劇を喜劇として貫かせることができないのだろうか。

 雷蔵のチャッカリした性格態度をおもしろがって見てきたのに、それが時代劇通有の人情、ここでは妹にたいする愛情から発したものだと、底が割れてしまい、そして涙なんか流されたのでは、急に興ざめの気分になってしまうのだ。

 これは新人の作品ではなく、ヴェテラン森一生の演出であるが、それだけに、旧時代劇スタイルを、打破ろうとしつつ、破り切れなかった、そこにこの映画の弱点があったと思う。

興行価値:既にシリーズものとして相当の成績をあげ、定評のある“濡れ髪もの”だけに封切成績も好調。(キネマ旬報より)

 

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詳細は「その他のシリーズ」“濡れ髪シリーズ”参照

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