浮かれ三度笠

1959年12月6日(日)公開/1時間39分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「闇を切れ」(増村保造/川口浩・叶順子)

製作 三浦信夫
企画 辻久一
監督 田中徳三
脚本 松村正温
撮影 武田千吉郎
美術 西岡善信
照明 斎藤良彰
録音 大谷巌
音楽 塚原哲夫
助監督 池広一夫
スチール 藤岡輝夫
出演 本郷功次郎(楠見兵馬)、中村玉緒(菊姫)、左幸子(お吉)、宇治みさ子(渚)、正司歌江(お梅)・花江(お松)・照江(お島)、美川純子(お花)、島田竜三(大岡越前守)、井沢一郎(徳川吉宗)、小堀阿吉雄(徳川宗春)、清水元(榊原采女正)、本郷秀雄(村井源蔵)、冨田仲次郎(権藤民部)、嵐三右衛門(赤座道犬)、香川良介(此木大膳正)、荒木忍(坂部監物)、小町るみ子(お雪)
惹句 『もと若様の雷蔵と、もと侍の本郷が、日本一の嫁さがしの痛快道』『若さに溢れた三度笠コンビが贈る明るく楽しい痛快時代劇

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 『濡れ髪三度笠』以上に面白く、清新な作品にというのがねらいで、雷蔵さん本郷功次郎さんに田中徳三監督トリオはすでに皆様御存知のとおり。全篇にみなぎる若さ、溌剌さが売物だけに又々爆笑が期待されています。そして、大映カラーを脱出する作品にもなる事も期待致します。

◆ おはなし ◆

 将軍職を吉宗と争って敗れた尾張大納言宗春は、諸国の不満を抱く大名を誘って、不穏な動きがあった。これそ察知した吉宗は、大岡越前守の進言をいれ、甥の松平与一郎と宗春の息女菊姫を縁組みさせ、宗春の心をしずめようと計った。

 だが、いち早くこれを耳にした菊姫は、腰元たちから松平与一郎が名うての道楽者で、ふ抜けの若君ときいて、この縁組を承知せず、お守り役の必死の諫言にも耳をかさなかった。お家の安泰のためと姫を説いていた老臣が何者かに斬られ、菊姫に預けたものは、宗春に加担を約した諸大名の連判状だった。菊姫はお気に入りの腰元渚をつれ、父の暴挙をとめようと、江戸屋敷を飛び出し、名古屋へ向った。

 菊姫出奔の報をどうして知ったか当の相手松平与一郎も、無断で忽然と屋敷から姿を消した。このことを知った両家の家老たちは公儀への手前もあり、内密に若君と姫君の行方を探すことになり、腰元渚の恋人楠見兵馬にこの役が命じられた。不成功の暁には切腹ときかされ、兵馬は大不満。プリプリしながら東海道を西へ。

 一方、菊姫出奔を耳にした大岡越前守は、その裏に何かがあると睨み、隠密黒手組の赤座道犬、並びにふくろう組の権藤民部に、それぞれ菊姫の跡を追わせ、所持すると思われるら連判状の奪取を命じた。

 箱根塔の沢で楠見兵馬は、やらずの与三郎と名乗る陽気な旅鴉とひょんなことから道連れになった。兵馬から無鉄砲に飛び出した姫君の跡を追っての旅ときき、与三郎は思わず膝を乗り出した。意気投合した二人は、閻魔堂で女やくざお吉に出会った。女だてらに長脇差をぶちこんだお吉は、口ほどにもなく、与三郎の男っぷりに一ぺんにのぼせあがり、夢中になってまつわりつく。無骨な兵馬には、何故この与三郎がどんな女にもすぐ惚れられるのか不思議でならない。

 兵馬と別れた与三郎が、沼津の宿で休んでいるところへ、虚無僧姿の菊姫と渚が、ふくろう組に追われて逃げこんできた。与三郎は菊姫らをかくまい、追ってきた民部らをまんまとマイてしまった。

 吉原の宿についた菊姫らは、島屋に宿をとった。そこでとっさに書いた偽名がもとで、菊姫は江戸の豪商の娘として扱われ、下にもおかぬもてなし。ところがこの宿に、楠見兵馬も泊っていた。思わぬところで渚にぶつかって驚く兵馬。腰元渚も兵馬に今までの苦労のかずかずと、菊姫の使命を打明けた。だが、この二人の話が、運悪く通り合せた黒手組耳に入った。今はニセ芸人の正体をかなぐり捨てた赤座道犬らは、菊姫らにひしひしと迫った。菊姫を追ったふくろう組の権藤らも雪崩こみ、この混乱で菊姫は連判状を何者かに奪われてしまった。 

 与三郎の思った通り、連判状は女やくざ、実は黒手組の女隠密お吉の手中にあった。色仕掛けの与三郎の口説きに、つい気を許したお吉は、難なく与三郎に連判状を奪い返されてしまった。

 気の強い菊姫もこのつかみどころのない与三郎に、いつしかほのかな思慕を抱くようになっていた、この菊姫に、与三郎はくったくのない顔でおいらは花嫁探しの道中と澄ましていうのだった。

 騒ぎでみなとはぐれた菊姫は一人で心細い道中を続けたが、常にそのピンチは与三郎の機智と剣で救われた。勝気とはいいながら、そこは大名の姫君、菊姫は初めてふれた男心のたくましさに、思わずいっとりとなった。

 与三郎の力で無事名古屋へ辿りついた菊姫ではあったが、事あれかしと願う逆臣たちは、ここで菊姫を宗春に逢わせて、気が変ってしまっては、今までの苦心も水の泡と、菊姫を遠ざけるのに躍起となった。家老榊原采女正は、宗春が政務多忙を理由に逢うことが出来ぬ、急ぎ江戸へ帰るよう、と冷たく言い放つ。

 今までの苦労を思えば、菊姫にはこの仕打ちが耐えられなかった。思わずワッと泣き伏した。そこに腰元渚が姫の身を案じながら到着した。無念に泣く菊姫の耳元に、渚は何かを囁いた。

 翌朝、采女正の手配で供揃いが用意された。菊姫は冷たい表情で駕の中に入った。一行が城下はずれに来た時、一発の銃声がこだました。供侍が気をとられている隙に、姫は脱兎の如く駕の中から飛び出、傍らの森の中へ走った。

 連判状をもつ与三郎に、忠義一途の兵馬が必死に迫る。さすがの与三郎もこの兵馬の一途さにはついに負け、連判状を聞く姫に返してあげてくれと、投げ与えた。

 頑迷な宗春に、菊姫は兵馬、渚を伴って死を賭して迫った。だが父は肯じない。そこえ、何処から降って湧いたか、やらずの与三郎が忽然と現われ、無茶なことをして、忠義な家来を犬死させることはない、と誠心誠意訴えた。さすがの宗春もやっと悪夢からさめ、菊姫をやさしく抱き、すべてを諦めると誓うのだった。

 名古屋での目的を果たした菊姫は意気揚々と江戸へ帰ったが、そこに待っていたのは道楽者で腑抜けの若君松平与一郎との縁組みであった。心の重い菊姫に腰元渚が秘策をさずけた。

 見合いの当日がやって来た。松平家へ入った菊姫は狂気を装って、松平家の家臣の目を驚かせた。だが、威儀を正して現れた松平与一郎を見て、姫の心は動転した。与一郎こそ夢にも忘れることの出来ない、あの旅の風来坊やらずの与三郎だった。「道楽者で、頭が弱く、その上怠け者の松平与一郎」と名乗られ、菊姫は思わず逃げ出した。その肩をぐっと押えたのは、与一郎である。菊姫は「意地悪ッ!」と叫んでその逞しい胸に倒れこんだ。その有様を兵馬と渚がうれしそうに見守っていた。


さて物語を紹介したところで、雷蔵さんにその抱負を聞こうと思いましたが、田中監督お聞きしてみるのもいいと思いましたので、伺ってみました。

 「何よりも若さを表面に押し出し、若さからくるエネルギーのバクハツを随所でみせ、スクリーンを通して若い世代と直結出来るような作品にしたい。そのためには、より現実的なタッチで、人間を浮き彫りにし、感情的にも現代の青少年が納得出来るようにストーリーを運びたい。ギャグも当然目新しいものが要求されるし、これは三人でいろいろ相談して考え出さねばならない。そしてこのトリオを全勝トリオとして決定づけてゆきたいものだ」と言葉すくなに語られました。

 また、雷蔵さんと本郷さんが顔を合わせるとその賑やかな事、でもこの二人のセットでの様子はまるで好対照。雷蔵さんは茶目っ気を存分にふりまき、スタッフの気をほぐし、クランクを順調に進める潤滑油的存在。一方本郷さんは、ライト待ちでもセット、オープンの片隅でニコリともしないでシナリオを読んで考え込んでいる。洒落っ気の雷蔵さんとむっつりの本郷さん、これだけでもこの作品の面白さがうかがえましょう。(59年11月発行よ志哉14号より) 

あらすじ

 将軍職を吉宗に奪われた尾張宗春は腹がいえない。不満の大名を誘って、不穏な動きに出る。吉宗は自分のオイに当たる松平宗一郎と宗春の娘菊姫とを縁組させて、なだめようとする。これを知った菊姫(中村玉緒)は、侍女なぎさ(宇治みさ子)を伴い江戸を飛び出す。追手をうけたまわったのが、侍女の恋人楠見兵馬(本郷功次郎)および幕府の隠密黒手組とふくろう組の二隊。

 兵馬は箱根で与三郎とよぶヤクザ(市川雷蔵)と仲よしになる。このヤクザには鳥追い女・お吉(左幸子)がつきまとう。与三郎ははからずも菊姫の危難を救い、これからの道中、あとになりさきになって姫を守るかっこうになる。与三郎は何者か?姫は疑ううちに愛情を持ちだ

 舞台は名古屋、姫は父をいさめ、兵馬は主戦論一味や隠密と戦う。そこにも与三郎が現われて危急を救う。

短評

 物語からすればありふれたお家騒動にすぎぬが、雷蔵三度笠シリーズという新型式の軽時代劇のこと、カミシモをつけた話はネライではない。前回の若殿とヤクザの友情にたいし、こんどは姫君とヤクザの恋といった両極端的設定。ヤクザは風のごとくきたり風のごとく去る。男前はもちろん、気性はヒョウキンで腕っぷしはモロに強い。これにほれざるはどうかしているといいたいほどの人物。そこで深窓の姫君が身分を忘れて恋に落ちる。そのさまをオモシロ、オカシク語るのが中身になっている。

 雷蔵快調。中村玉緒も好演。それにキマジメな青年剣士本郷功次郎を駆り出して、さらにユーモアあり。もっとも与三郎が誰かを当てさせるものではないから、正体の隠し方はこのていどでも構わぬが、かんじんかなめのピンチの作り方や、事件の解決法についてはあまりうまいとはいえぬ。

 演出のうえでスポーツ的軽快さのほかに、もひとつあざやかな才気を加えてほしいということだ。このシリーズの田中徳三監督は、東映沢島忠雄監督とならんでますますたのしめる存在だけに、脚本構成やギャグ投入などにザン新なくふうがほしいところだ。(君島逸平 西日本スポーツ12/14/59) 

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詳細はシリーズ映画、その他のシリーズの『濡れ髪シリーズ』参照

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