かげろう侍

1961年11月19日(日)公開/1時間29分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「明日を呼ぶ港」(島耕二本郷功次郎・橋幸夫)

企画 税田武生
監督 池広一夫
原作 伊藤大輔
脚本 松村正温
撮影 武田千吉郎
美術 太田誠一
照明 加藤博也
録音 近藤正一
音楽 鏑木創
助監督 友枝稔議
スチール 西地正満
出演 中村玉緒(お珠)、浦路洋子(お光)、近藤美恵子(お恵)、藤原礼子(お千)、島田竜三(百崎)、北原義郎(南三五兵衛)、大辻伺郎(清吉)、小川虎之助(弥兵衛)、林寛(舅)、堺駿二(小窪)、若杉曜子(お志保)、浜世津子(お鯉)、水原浩一(丑松)、寺島雄作(巳之吉)、市川謹也(佐藤半之丞)、寺島貢(太十)、宮坊太郎(梶)
惹句 『この部屋、あの部屋、謎の女と男でいっぱいの温泉宿におしどりコンビの推理合戦』『山の湯は謎と事件が超満員浮気しながら推理するのんびり型の若侍』『酒は強いが女に弱いレジャー侍が賞金かせぎの犯人探し湯の町はみんな怪しい客ばかり』『女たらしで、酒のみで、とんだ男と思いきや、あきれかえった腕の冴え

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[ 解説 ]

 『反逆児』を監督した伊藤大輔の原作を『お馬は七十七万石』の松村正温が脚色。『小太刀を使う女』の池広一夫が監督した推理時代劇。撮影は『鯉名の銀平』の武田千吉郎。

★ 解 説 ★

 この映画、総天然色『かげろう侍』は、伊藤大輔が、“グランド・ホテル”の形式でまとめた原作を市川雷蔵がお得意の濡れ髪調で描くコミック・スリラーですが、新鋭池広一夫監督は、明るい笑のなかに、ヒッチコックばりのサスペンスを盛上げ、現代感覚に溢れた新鮮な推理時代劇に仕上げたいと意欲を燃やしています。

 内容は、お家騒動をめぐって奉行所から消えて行った犯罪記録の探索を命ぜられた主人公喜多弥十郎が、遊び人に化け箱根の温泉宿に足止めをくった泊り客のなかから真犯人をたぐって行くうちに、不可解な連続殺人にあう。ところが、十数人の湯宿の客は何れも怪しめば怪しむに足るいかがわしい人物ばかりというわけで、犯人は一行に尻尾を出さない。大命を受けた弥十郎は、まだ家禄も持たない部屋住みの身分ながら酒と女には目がないという全く頼りない極道者で、推理マニヤの許婚者お珠をやきもきさせるが、実は頭のキレるしっかり者。これまでの捕物映画とは全く趣きを異にした、新しいジャンルのコミカルな推理時代劇です。

 配役は主人公弥十郎に市川雷蔵、その許婚者お珠に中村玉緒のほか、浦路洋子、近藤美恵子、藤原礼子、島田竜三、北原義郎、大辻伺郎、小川虎之助、堺駿二、林寛といった豪華な顔ぶれを誇っています。

 またスタッフは企画税田武生、原作伊藤大輔、脚本松村正温に、監督には意欲十分の新鋭池広一夫を起用し、武田千吉郎の流麗なカメラを得て、一流どころの精鋭ががっちり製作陣を固めています。(公開当時のプレスシートNo.1041より)

 大映の市川雷蔵、中村玉緒コンビがコミックなムードで描く推理時代劇『かげろう侍』(監督池広一夫)は、時代劇に新しいジャンルを開拓しようという野心の一作だが、雷蔵・玉緒の絶妙ケンカコンビに話題が集中、軽快なテンポ。このほど京都近郊のロケから帰りスタジオ入りして、雷蔵の弥十郎と玉緒のお珠による宿屋のセット撮影にはいったが、若さにあふれる池広演出は、意表をつく特異なアングルで細かくカットをたたみ、ベビークレーンや傾斜移動などを利用して、思う存分カメラを動かせて、いかにもユニークな画調をみせている。

 この日のシーンは、奇怪な殺人事件の探索を命ぜられた雷蔵が、遊び人に変装してある宿屋に潜り込む。大の推理マニアである雷蔵の許婚の玉緒も、それを助けようとその宿に女中に早変わりして大活躍するシーンだが、雷蔵にはヨミの浅い玉緒の応援は、あまり出しゃばりすぎて少々ありがた迷惑な感じで、足手まといの存在だ。バッタリ宿の階段で会ったこのケンカコンビの二人は、さっそく口論をくりかえす。玉緒におされ気味の雷蔵は「そうかい、なるほどね・・・」と手にしたこどもをあやしはじめる。玉緒は雷蔵のこの姿に、口をとがらせフクレづらで「あたしがこんなに一生懸命なのに、もうしらない・・・婚約は解消よ」と横をむいてしまう。こんな二人の軽いやりとりを池広監督は満足そうにながめていた。

 この狭い階段のシーンを無事におえて雷蔵は、玉緒に聞こえよがしの大声で「勝ちゃんも大変や、しっかりせんと婚約解消いいわたされるで」とスタッフ連を笑わす。これを聞いた玉緒は「あの人は、雷蔵さんとは違います。わたしのいうことも、よく聞いてくれはります・・・」とすましてセットを出ていった。(西スポ 11/13/61)

 

             

★ 略 筋 ★ 

 この映画の主人公喜多弥十郎は南町奉行所の同心喜多弥兵衛の息子だが、まだ部屋住の無役の身分ながら、おしゃれなうえに、酒と女とバクチには全く目がない道楽者で、特に両替屋泉州屋の娘でお珠という許婚がありながら、揚子屋の娘のお光ともねんごろになり、逢曳きを楽しんでいる。こんな弥十郎に、奉行所から突然の呼び出しがあった。沼津藩のお家騒動にからんで奉行所の犯罪書類が虎鮫の寅吉という夜盗に盗み出されたため、これを箱根を越えるまでに召し捕えて、必ず取り返せというのである。弥十郎は一向に乗り気を見せなかったが、お光に対する三百両の必要から賞金目当てにしぶしぶこの大役を引き受けるのだった。

 遊び人に変装した弥十郎が潜入した“福乃屋”は箱根の山中、ただ一軒ポツンと建った温泉宿。連日の長雨続きと山崩れのため二三日来足止めをくった泊り客で超満員だったが、犯人は必ずこの中にいるにちがいないのである。さて泊り客の顔ぶれは・・・異様な目つきの浪人風の男須賀半九郎▽、取調べがあると弥十郎に夫婦を装ってくれという艶っぽい芸者風のお恵▽、赤ん坊連れの暗い影のある浪人百崎百之助▽、風車作りに余念のない金三・お志保の飴屋夫婦▽、乳呑児を抱えたうえ中風で唖の舅の世話をする若い母親のお千▽、小間物商の万吉・お島の夫婦▽、薬屋の茂兵衛▽、無職渡世の夫婦者竹造・おちか▽、風呂場で刺青をかくす金銀仲買人の丑松▽、ドンツクをたたく講中の巳之吉、佐助など − いずれも疑えば怪しむに足るいかがわしい人物ばかりである。

 ところが弥十郎の前途に思いがけぬ障害が立ちはだかった。許婚お珠が女中になりすまして不意に福乃屋に現われたということである。彼女は元来大へんな捕物マニヤで、捕物帖から得たはすっぱな知識をもとに、あわよくば弥十郎を出し抜いて鼻をあかそうという魂胆だが、弥十郎にとってはまさに有難迷惑な存在となった。

 犯人捜査の手がかりさえつかない福乃屋に、三つの殺人事件が相次いでおこった。▽第一の殺人はある夜須賀半九郎が、二階の明り窓から小柄で背中を刺されて変死した事件である。浪人百崎の証言では被害者はもと同じ沼津藩の家中で、手口は、明らかに沼津藩に伝わる手刀流剣法によるものだということから、下手人はこんどの事件に関係のある侍の仕業と思われる。そういえば、宿の周囲を深編笠の武士がうろついているのを見かけたものもいたという。▽第二の殺人事件は、お鯉という芸者風の女が、宿に来たその晩、十両の金を財布に残したまま湯元小屋で滅多突きにされて死んでいた。弥十郎は現阿鼻残された兇器と思われる裁ち鋏を発見し証拠として秘かに懐中におさめたが、こんどの手口からみれば、犯人は物盗りではなく、しかもこの宿の中にいる誰かに違いない。▽第三の殺人は、ドンツクの佐助が彼自身の匕首により浴室の踊り場で、また同じ講中の巳之吉が浴室での中で袈裟がけに斬り下げられてしんでいたのである。- この三つの事件を通して弥十郎の推理は次第に犯人の足取りをしぼって行った。

 しかし捜査途上において、弥十郎とお珠の見解はしばしば対立、そのたびに派手な口喧嘩が繰返された。・・・目指す犯罪書類が外部に流れることを心配したお珠は、少々頭は弱いが小田原藩の与力小窪の協力を得て、泊り客の紙屑を一つのこらず集めてみたが、ある時そんな彼女に思いがけぬ危機が迫った。彼女は足をすべらせて二階から落ちたのだが、弥十郎をこのことを手がかりに、犯人わり出しに重大な確証を得たのである。しかし、山崩れはすでに回復し、足止めの解ける日も近い・・・弥十郎はそれまでに犯人をつきとめ、問題の犯罪書類を取返さなければならない。・・・真犯人は果してだけか?(公開当時のプレスシートNo.1041より)

 

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『反逆児』を監督した伊藤大輔の原作。

 

 

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