洛中・周辺

 

 洛中では何といっても二条城がロケ名所の横綱格でしょう。彦根城が自由に使えなくなった今日では、石垣と濠を堂々とめぐらし、大手門や白壁も美しい角櫓などを備えた二条城が貴重な存在となってきました。二の丸、本丸御殿や小堀遠州作の庭園などは江戸城の吹上御苑になったり、内濠のあたりは『忠臣蔵』の赤穂城になったり、大変な忙しさです。何処にカメラを据えても美しい構図の取れるお城ですから、各社とも盛んに使用しております。

 

 京都御所は云うまでもなく王朝物に大活躍。白砂の道とクラッシックな築地塀が長々と続くあたりは『新・平家物語』『獅子丸一平』『修善寺物語』などでお馴染みとなっています。

 東西本願寺の大伽藍も見逃せません。殊に西本願寺の玄関前は大名屋敷などに絶えず活用されています。この南には日本一の五重塔で有名な東寺がありますが、此処の雄大な景観もしばしばカメラにとらえられています。

 

 さて、鴨川を渡って東山三十六峰の麓へ足を運びましょう。石川五右衛門が住んでいたという楼門で名高い南禅寺辺は、昔風の石垣や松並木が続いて武家屋敷などに大いに使われます。西北には丹塗りの美しい平安神宮が専ら外国映画のロケで賑わい、南に参りますと青蓮院に出ます。此処は幅広い石段の上に殿舎が並んで、よく京都所司代や町奉行所に化けていますが、白壁と塀の大椋木の樹が如何にも時代劇のロケ地らしい風趣を添えております。

 この前の坂を登ると知恩院で、昔は壮大な山門と高い石段などが幕末物によく利用されたものです。本堂の渡り廊下が最近では殿中のシーンに使われます。

 鴨川の上流では上加茂神社の馬場が『地獄門』の競馬のシーンに撮られたり、下加茂神社一帯の糺の森には芝居小屋のオープンなどが組まれたりしています。流れを下ってゆきますと、三条、四条の河原になりますが、現代劇の場合にはこの辺が京情緒を描き出す絶好の地となっています。『偽れる盛装』『祇園の姉妹』『夜の河』など、京都をテーマとした作品の一つの焦点といえましょう。

 

 洛南の伏見は全国でも有名な酒どころで、大きな酒倉が立ち並んでいますが、この辺は鼠小僧治郎吉などの怪盗たちの活躍や、お店者のラブ・シーン撮影に使われます。

 最後に、琵琶湖周辺を駈け足で採ってみましょう。船着場として良く出てくるのが真野です。入江のようになっている地形が、ちょうど港町という感じになるわけです。東海道の松並木に変るのが今津あたりの湖畔です。合成で富士山でも入れると、立派に沼津や浜松あたりの光景に化けてしまいます。

(映画ファン 56年11月号)