大映京都の時代劇は、正統時代劇の火を燃やし続けているということで定評があるが、その中で市川雷蔵は、おなじみの“眠狂四郎” “忍びの者” “鞍馬天狗”などのシリーズで堅城を守り続けている一人である。

 現在も眠狂四郎シリーズの八本め『眠狂四郎無頼剣』(監督三隅研次)が撮影されている。これは時代劇の大御所伊藤大輔が初めて脚本を書いて、狂四郎映画を時代劇のサンプルにしようと意気込む問題作。セリフやアクション、小道具やセットなどすみずみまで本格的な考証が行きとどいて、久しぶりの時代劇らしい仕事にスタッフは張り切っている。

 物語りは、大塩平八郎の乱の残党が復しゅうのために江戸に来て、江戸全土を焼きはらうという計画を知った狂四郎が、庶民のために対決をいどむ。この対決で狂四郎の円月剣に、不適にも浪人の首領も円月剣で迫るという。シリーズ初めて円月剣対円月剣の血闘が展開する。

 地すり下段の構えから、剣は孤を描き終わるまでにその異常な殺気に誘われてきらてしまうという、恐ろしくも鋭い殺法だが、黒の着流しの狂四郎と、白の着流しの浪人(天知茂)でクライマックスを盛りあげる。これこそ時代劇ならではの最高とスリルをみせるショーである。

 「なんといっても絶対に負けない円月剣と円月剣が対決するのだから、決論を出すのに総宇藤苦心します」とタテ師は頭が痛そうだが、円月殺法の新手が登場する立回りシーンがファンの拍手をあびるだろう。