「間近く来たりし二人のもの、ハテ誰やらに似たワ似たワ・・・」似たのも道理、かっての名優岡田時彦と阪東妻三郎のそれぞれ忘れ形見。惜しまれつつ亡くなった両優の遺志を継いで、富士の裾野ならぬ映画界に討入った二代目同士。片や東宝の看板娘、片や松竹の新進二枚目と、働く場所は違っても、思う心は同じ親父どのの葬い合戦。本懐とげる日が待遠しい、待遠しい。

 

 

 「絶景かな、絶景かな。初春の眺めは価千金と小せえ、小せえ。この五右衛門(モリシゲ)の目からは万両、万々両・・・」『警察日記』『夫婦善哉』等々で大活躍して、三十年度演技賞獲得は確実という森繁にとって、この正月こそはまさにわが世の春。「ハテ、うららかな眺めじゃなぁ・・・」である。

   

 

 

「育ての親の大映を飛び出して日活に走った南田洋子。「あの娘ばかりは」とたかをくくっていただけに、去られた佐野次郎左衛門ならぬ大映は大あわて。

 「そりゃあんまりではなかろうか。ただ一介の小娘から、看板スターに仕立てあげ、やれ嬉しや、これからもうけさせてもらえるものと思っていた折も折、案に相違の愛想づかし。そりゃ昨日にかわる今日の花と、心変わりがしたかは知らぬが、そうならそうとなぜ早くからいうてはくれぬ。やれ南田よ、洋子よといわれるようになったはだれのおかげ。ここの道理を考えて察してくれてもいいではないか・・・」とかきくどいても後の祭り。どうやらこの勝負、わが手を離れるまいと思いこんでいた大映次郎左衛門の負けらしい。

 

 

 「月もおぼろに白魚の、かがりもかすむ・・・」大川端ならぬ映画界で、いずれも看板スターとして名の高い三人娘。「互に名を売る身の上に、引くに引かれぬライバル同士。・・・虫拳ならぬこの場の勝負・・・」と大いに張合うところだが、そこが利口な娘たちだけに「いかに血の気が多くとも、こっちにケガがあってもならない・・・」と何の機縁か義を結び、つくりあげたがにんじん・くらぶ。

 弱い一本の矢も三本よれば容易に折れないという故智どおり、互に助け合い、結成一年目には『忘れじの人』『胸より胸に』と自分たちの映画を作りあげ、息は天をつくばかり。「争う心は鬼は外、福は内輪の三人吉三」ちぎりも固くわが道をゆく。

 

 

 日本駄右衛門  中村錦之助

 「問われて名乗るもおこがましいが、生れは歌舞伎の名門育ち、舞台を離れ銀幕に飛び込んだのが幸いして『笛吹童子』『紅孔雀』とトントン拍子のスター街道。今では日本の端々まで少年ファンにかくれのねえ若衆スターの頭分。その名も中村錦之助」

  弁天小僧  中村扇雀

 「さてその次は浪花なる、関西梨園の女形上り、舞台にあっては振袖で水もしたたる女っぷり、持ってそなえた美貌を買われ、撮った映画も二度、三度。舞台と銀幕二筋に、だんだんのぼる人気の故。その名も高き中村扇雀」

  忠信利平  東千代之介

 「続いてあとにひかえしは、月の武蔵の東京生まれ。若い時から踊りが好きで、上野の学校ふりだしに、きたえられたる日本舞踊。その舞台なるあで姿をみとめられたが機縁となり、映画に入って錦之助と人気を争う伊達男。その名は東千代之介」

  赤星十三  中村賀津雄

 「そのまた次につらなるは、依然は歌舞伎の名子役。兄にならって映画入り。舞台できたえし度胸のよさで、一躍スターに名をつらね、『振袖剣法』『千葉周作』と剣をふるう美少年。若さにあふれる中村賀津雄」

  南郷力丸  市川雷蔵

 「さてどん尻にひかえしは、修行のきびしき舞台育ち。デビューは『花の白虎隊』若衆スターのその中でも、筋金入りの張切り男。“吉川・平家”の清盛を演じおおせて人気をあげ、押されもしない一線俳優。その名も轟く市川雷蔵」