“明るく楽しい日本調ミュージカルの狸御殿を・・・”と木村監督は抱負を語っていたが、初日のセットは、いかにもこの監督のねらいとピッタリあった、“カチカチ山”のシーン。
美術監督の上里義三、西岡善信の両氏が、童話の絵本を買い集めたりして工夫をこらしたというセットは、ディズニーの動画を思わす美しさで、大きなA2ステージへ足を踏みいれると、さながら夢の国へ迷いこんだようなふんいき。
小さな沼のほとりにトチの大木が根を張って、黄色く色づいた大きな葉を垂れ下げている。太い幹には、空ドウがあって、ここがお黒と、父の泥右衛門(菅井一郎)の住居という設定。
緑のクヌギ林が続く枯葉の中から、人間の頭ほどもあるキノコがニョキニョキ生え出て、人里はなれたカチカチ山の情景を見事に出している。
木村監督の“ヨーイ、スタート”の声がかかると、勝の吹きこんだ明るい調子の「薬売りの唄」がセット一ぱいに流れる。やがてこの歌に乗って勝の栗助が陣羽織、背中に旗を背負った薬売りスタイルで太鼓を打ち、歌いながら登場する。
沼に倒れんこんだ木の上にパッと飛び出したカッパのおぷく(小浜奈々子)、おぴよ(毛利郁子)たちがキャッキャッと合の手を入れて合唱する。
日劇ミュージックのトップ・ヌードの小浜奈々子は、時代劇初出演、とくにこのシーンのために大映から招かれたのだが、ナイロンの腰ミノ、頭にも同じくナイロン製水色の長いズラを下げ、背中にコウラをつけたカッパスタイルで毛利とともに美しいヌードを惜しげもなくみせる。
お黒の父泥右衛門は、昔ウサギのために大火傷を受けた意地悪タヌキで、親孝行なお黒が父のために薬を買っているうちに栗助と結ばれ、父の悪心もなおす・・・と話は続いている。ところで、スタッフ一同楽しくのびのびとして、いかにもミュージカル映画らしい初日の撮影風景だった。
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