

僕が結婚するとき
(雷蔵さん、さかんに料理をつつきながら)
雷蔵: この支那料理は、広東ですか、北京ですか。
記者: 北京料理でしょう。雷蔵さんは東京へいらした時、まずどこへいらっしゃいますか。
雷蔵: おすし屋ですね。ああいうものは東京の威勢のいいあんちゃんが、さっさっと握ってぱっと出してくれないとおいしくない。中華料理も東京だけど、日本料理は京都ですね。
川口: うちの主人も東京の日本料理はまずいと云いますよ。関西の人ですから・・・。
雷蔵: 東京のは何でも煮しめたような、いわゆる関東だきですね。何かほんとうのおそうざいみたいな感じで・・・。(笑)関西はうつわや並べ方なんかも、大へん気を使っていますね。
川口: 食べ物の事も相当くわしいのね。そうすると雷蔵さんの奥さんになる方はお料理もうまくなくちゃだめなのね。
雷蔵: いや下手でもかまいません。そんな時は外で食べる。家におらぬだけのことで・・・。(笑)
川口: それじゃ困るわね。尤も私だって踊りばかりやっていて、とにかく女らしいことは何一つしないんですけど・・・。だから私は初めから出来る顔をしてないんですよ。(笑)
雷蔵: 一つお伺いしますが、女の人がこの人と生涯を共にしようという時は、相手の男性を100%信じて結婚するものなんですか。やっぱり50%くらいで踏み切るものなんですかね。
川口: :これは私の場合じゃないですよ。一般の女の人というのは100%までとはいかなくても90%くらいは大丈夫だろうと思いこんでしまうんじゃないかしら。その失敗が案外多いんじゃないかと思うわ。
雷蔵: そうすると僕らの場合、経済面の心配は別にないし、結局奥さんはよりよき家庭を作ることに努めてくれればいいのですから簡単ですね。
川口: でも夫婦生活というものは、経済面だけじゃなくて精神的な面が大きいから・・・。
雷蔵: それ位の気を使って貰わなくちゃばかになっちゃうんじゃないかな。貰った時はいい奥さんだったのに、いつしかぬるま湯につかってしまったようになって・・・。(笑)
川口: たえず美女と恋したり恋されたりする御商売ですからね。奥さんたるもの心配になると思うわ。
雷蔵: それは仕事ですから−それだけは理解してもらわなくちゃ・・・。
記者: 雷蔵さんはどうでしょうね。結婚しようと決心する時・・・。
雷蔵: ぼくは・・・そうだな、余り先のことなど深く考えないで、好きになったらぱっと結婚しちゃう傾向が強いかな。われわれはその次に、この人と結婚したら子供はどんなふうになるかなということを考えますね。僕は目が小さいからもっとぱっちりした目の子供がほしいとか、もっとりっぱな体の子が生れてほしいと思うな。
川口: 子供はお好き?
雷蔵: 大好きです。
川口: 子供の好きな男性というのは奥さん仕合せですよ。だけど映画ではまだ子供のある役はやってないの。
雷蔵: 第一、夫婦の役があまりない(笑)。でも今度やる五味康祐さんの『二人の武蔵』というので初めて第二世が出来るのです。おかしなもんでへんにうれしいような気持がして、興味があります。
川口: ちゃんと生れるの?
雷蔵: 生れないです。つまりお腹の中に子供がある。だから危険なことはやめてくれと頼まれる。そこで子供のため妻のため、武士の剣というものを捨てるのです。しかし現代の生活でもこういうことがあるんじゃないかな。仕事の面でも今まではかっとなって、部長や課長にたてついてやっていたのが、家庭を持つと穏便になりがちですからね。武智先生の場合は別ですが。(笑)
川口: ええ、うちはもう大へんです。批評家や舞踊家の悪口を平気で書くでしょう。親しい人の場合なんか、こlちがひやひや(笑)いつか水谷八重子さんにお会いした時、坊ちゃまのお守り大へんでしょうって云って下さるの。御当人は僕の方が苦労してるのにやけに君に同情があるな、なんて云ってるけど・・・。(笑)
雷蔵: 勝手なようだけども、男はやっぱり甘えん坊、やんちゃ坊やみたいなタイプの方がいいんじゃないかな。
川口: 逆に女は母親のようなところがなければいけないのでしょうね。おばあさんになっちゃいけないけれども、気持の上では・・・。ところで1960年のお仕事の目標は決まりました?
雷蔵: 年頭からずっとやりたいものだけでも五つ六つ続いて、いい年になりそうですが、まあ無理をしないで、成りゆきにまかせながら、自分の主張というものを出していくという方法でやってゆきます。
川口: では、お互いにしっかりやりましょう。
◆川口秀子さんは、今年(2009)1月5日老衰により逝去されました。心よりご冥福をお祈り致します。享年86。
(婦人生活 60年1月号)