坊ちゃまは大変おとなしい方で苦情一つ云わず、私達がこせこせ気を使うのは、かえってやりきれないとかで、呼ばれて行く位が関の山の、手数のかからぬ方です。

 夜「明日は何時に起きる」とおっしゃって、翌朝は一度ですぐ飛び起きます。朝食はチーズにジュース(リンゴの)位で、お出かけまで十分か十五分位のあわただしさです。果物は大好きなのですが、生だと食べるのに時間がかかるからジュースにする訳です。

 晩飯は殆ど家でなさり、気の毒な位小言も云わず、私達のインチキ料理をいただきます。野菜料理が大好きで。以前肝臓を悪くした事があって以来、油っこいものは余り好きません、夜遅くまで撮影のお仕事があると、手製の弁当をつくって撮影所に運びますが、家に帰ってからの夜食も、一時や二時頃になると料理を替えてでも消化のいいものを作り直します。

 好き嫌いはないのですが、川魚は余り好みません。というのも細い骨があって「ややっこしいのは駄目だ」というのが理由なので、骨をとって差し上げると、それでもあがります。特にはフグ料理が好物。おかずは量が少なくて種類の多くある方がお好きで、御飯は二杯か二杯半位。

 晩酌は、夏は中ビールを一本、それも残す位で、冬は疲れて、明朝がゆっくりしたあんばいだと、日本酒を七酌位いただく位です。直ぐ真赤になって、ごろりと横になるんですよ。

 たまに暇が出来ると家にじっとしておられず、映画を観にお出かけです。それもただ一人でいらっしゃいます。近眼なので前の方の座席に坐らなければならないし、連れに気を使うのがおいやなのだそうです。一人で気のおもむくままに自由行動をとるのがお好きなのだとかで、それでも、坊ちゃまの出先はいつも正確に私達に知らせてあり、常に電話で「何時まで何処何処にいる」と連絡があり、「今坊ちゃまは何処にいらっしゃるかな?」と戸惑う事は今まで一度も、本当にありませんでした。(映画ファン58年1月号より)