大映京都でクランク中のカラー・ワイド作品『弁天小僧』(伊藤大輔監督)の撮影で、時代劇では全く珍しいキス・シーンが撮られた。しかもそのご当人は、キス・シーンは初めての市川雷蔵、相対するは大映へ特別出演中の青山京子(東宝)である。

◇・・・弁天小僧(雷蔵)から恵んで貰った金を、父親から返せといわれたお半(青山京子)が、弁天小僧の隠れ家を訪ねたことから岡っ引きにあとをつけられ、御用提灯に追われることになる。追手を逃れて弁天小僧とお半は手に手を取って闇に逃亡するというシーンの一カットだ。

◇・・・このキス・シーンは、もともと台本にはなかったのだが、撮影当日になって伊藤監督がつけ加えたものだった。逃げのびた二人は大川端で別れようとするが、お半が泣きくずれて放さない。思わず弁天小僧はお半を抱きしめて・・・という熱っぽい演技に、雷蔵はすっかりアガってしまった。(キス・シーン)

だからとて、そうテレることもないじゃろう」と伊藤監督にひやかされれば「大丈夫ですよ、『浮舟』では山本富士子さんの首すじに経験ずみですから・・・」と大きなことをいっていたが、本番≠ナはすっかり青山京子におされ気味だった。

◇・・・それもそのはず、青山は『純思春期』『くちづけ』『飛出した若旦那』と三本もキス・シーンを経験しているのだから。「雷蔵君の方は目をあいて、青山君は目をつむって・・・」と演技をつける伊藤監督もすっかり若返ったような表情だった。

(日刊スポーツ東京版  11/10/58 )