@「産経新聞」より

 五味康祐の本紙連載小説を映画化する大映京都作品『薄桜記』が、森一生監督のメガホンで撮影に入った。市川雷蔵の丹下典膳、勝新太郎の堀部安兵衛という顔合せで、二人の剣士の明暗二筋の運命を描く格調高い時代劇だが、森監督は、五味ぶんがくの特徴ともいうべき剣の凄絶さを画面に再現しようと、このほど古武道の研究家・森田鹿蔵教士をセットに招き、古来伝統の各流の型を研究した。

 この日、見学に集ったのは市川雷蔵、勝新太郎の両剣豪?をはじめ、この作品に出演する時代劇のベテラン俳優たちだったが、さすがに初めて見る古武道の妙技には、全くカブトをぬいだ形で感嘆しきり。中でも森田教士の見せた“血振るい”の太刀さばきは人を斬った後の血をふるってサヤにおさめるまでの動作だが、ズシリと重い真剣が空におどる感じで、ちょうど西部劇のピストルさばきを思わせるあざやかさ。勝新太郎などは、さっそくこの方法を覚えたげな顔付きだったが、これは剣の重みを利用した方法だけに“下手をすると自分の首を切りかねないからね”と二の足を踏む有様。

 つづいて、森田教士は殺陣師の宮内昌平を相手に柳生石舟斎の創始した夢想剣、独妙剣、絶妙剣、雷電、サヤ取りなどをつぎつぎ披露したが、片腕の剣士になる市川雷蔵に“先生はだれか左手だけの剣豪をご存知ありませんか”ときかれ、“そうですね私の知るかぎりでは丹下左膳だけですよ”とユーモアを飛ばすなど、なごやかな研究会風だった。

左から勝新太郎、市川雷蔵、森田教士